日本のテンナンショウ ~関東(伊豆諸島含む)・東海編

Arisaema Mart.  Sect. Pistillata   (Araceae) 


Arisaema の第3弾は関東・東海地方編です。

このエリアには、特別珍しい種、とかがいるわけではないので、やや地味なイメージをお持ちの方もさぞ多いことでしょう。
まぁ、事実かもしれないですね。

とはいえ魅力的な種類もいるので、見逃せません。


*1 北関東に分布するヤマジノ、ミクニ、ユモト、コウライ、ヒロハ、オオマムシはこちらへ→ 中部編
*2 静岡に分布するシコクヒロハはこちらへ→ 九州編
*3 伊豆半島と静岡県に分布するオオミネはこちらへ→ 近畿編
*4 マイヅル、ウラシマはこちらへ→ Sect. Flagellarisaema
*5 伊豆諸島南部に分布するシマテンナンショウはこちらへ→ Sect. Clavata

Arisaema aequinoctiale Nakai et F.Maek. 

ヒガンマムシグサ


埼玉、愛知、岐阜、四国、中国と、とびとびで分布するヨシナガマムシグサ、神奈川、静岡、山梨に分布するハウチワテンナンショウ、千葉県(房総半島)に分布するヒガンマムシグサの3タイプが、この aequinoctiale にまとめられました。

写真は箱根の個体になりますので、ハウチワ型ということになります。
不連続な分布を示すので、個体群毎に個性があるでしょうから、どこでどう区切るのか、という好みの問題ですかね。

仏炎苞筒部口縁が耳状になるあたり、ミミガタテンナンショウに非常によく似ています。
仏炎苞の色が薄いこと、付属体がやや細いこと、筒部の白条が細いこと、小葉の幅が細いことなど、雰囲気程度の違いがいくつかあります。




(神奈川県)

Arisaema angustatum Franch. et Sav.
ホソバテンナンショウ


特別個性がある訳でもなく、他の種類に比べて細葉、というわけでもないという非常にオーソドックスな見た目の種類。

関東地方から東海地方の暖帯域で、極めてふつうに見ることができます。

仏炎苞の色は緑でほぼ固定。


(静岡県)

Arisaema aprile J.Murata 

オドリコテンナンショウ


伊豆の天城山周辺にのみ特産するレア種。

一見するとユモトマムシグサと同じですが、葉柄基部が襟状になることで判別できます。
あと、葉に斑が入りがちだそうです。

この自生地では、斜面の上から下にむかって点々と個体が見つかり、表面浸食と共に拡散しているんだなぁ、という雰囲気でした。

伊豆は、固有の3種を含む6種の Sect. Pistillata がいて、国内有数のホットスポットとなっています。

(伊豆半島)

Arisaema hatizyoense Nakai
ハチジョウテンナンショウ


伊豆諸島は七つあれど、八丈島にだけ分布しています。

シマテンナンショウに比べて開花が遅く、残念ながら出たばっかりの葉しか見つかりませんでしたが、光沢が強く、かなりがっしりとしている特徴が良くわかりました。


(八丈島)

Arisaema kuratae Seriz.
アマギテンナンショウ


伊豆半島にしか分布していません。
どの種類と系統的に近いのか、ちょっと判断しかねるほどかなり個性的な見た目をしていて驚きました。

葉は1枚の個体と2枚の個体が半々ぐらい、仏炎苞の色は紫のラインが入るタイプが多いものの、緑系もいました(写真中)。

オドリコの自生地もそうだったのですが、ここもシカの食害が酷いものでした。
でもArisaema たちはよろしくやっているようで、なによりです。


(伊豆半島)

Arisaema limbatum Nakai et F.Maek.
ミミガタテンナンショウ


仏炎苞口縁が耳状に広がっていることから、ミミガタといいます。
ヒガンマムシグサに近いですが、仏炎苞の色が濃い褐色で、付属体が太いことなどが区別点となっています。

ヒガンもそうなのですが、開花が他の種類より圧倒的に早く、また葉の展葉が開花より遅れることがこの種群の特徴となっています。



(東京都)


Arisaema maekawae J.Murata et S.Kakishima
ウメガシマテンナンショウ


東海地方から中国地方にかけて、点々と分布しているマイナー種。

ふつうに歩いていても、ホソバやムロウだと思ってスルーしてしまいそうな見た目です。

付属体が太いことが、パッと見で認識しやすい区別点だと思います。

この自生地(タイプ産地の梅ヶ島です)には、同所的にホソバもいたので、繰り返し見てるうちに葉の形だけでもどちらか見当がつくようになりました。


(静岡県)

Arisaema monophyllum Nakai
ヒトツバテンナンショウ


仏炎苞舷部の内側に入った濃紫の模様が唯一無二の特徴です。

もっぱら思わぬところで出会うのですが、尾根部とか、少し乾燥したようなところに多い気がします。

舷部内側に模様のないアキタテンナンショウ (f. akitense (Nakai) H.Ohashi)と、舷部一面が暗い色をしたクロハシテンナンショウ (f. atrolinguum (F.Maek.) Kitam. ex H.Ohashi et J.Murata) (写真下)の2品種が記録されています。。

(↑群馬県 ↓神奈川県)

Arisaema serratum (Thunb.) Schott
カントウマムシグサ


かつて、その形態の多様性から、ムラサキマムシグサだの、トウゴクマムシグサだのと分けられて (分けようとして?)きましたが、最近では統合されています。

本州でどの種の特徴にも当てはまらないような Arisaema がいたら、ひとまずカントウ!と言っておけば間違いないでしょう・・・つまるところゴミ箱ですね

写真上は仏炎苞が紫のタイプでムラサキマムシグサ、下は仏炎苞が緑色のタイプでカントウマムシグサとそれぞれ呼ばれていました。

緑型はコウライとよく似ていますが、付属体が棍棒状であるという点で区別可能です。

(栃木県)

Arisaema suwoense Nakai
ヤマグチテンナンショウ


カントウマムシグサとオオマムシグサの中間的な見た目の種類。
花序柄が短く、葉より下か同じ高さで開花するところが他種との違いとなっています。

この写真の撮影地は伊豆です。
当地の個体群は、これまでイズテンナンショウと呼ばれていましたが、昨今は山口県に分布する suwoense とまとめられており、 Arisaema によくありがちな隔離分布をした種類ということになりました。

典型的な個体の葉は1枚、ということなんですが、見つけた開花個体はみんな2枚でした。
Arisaema としては珍しく透性交雑を起こしているということで、その影響なのかもしれません。

(伊豆半島)

Arisaema undulatifolium Nakai
ナガバマムシグサ


国産の Arisaema の中では、トップクラスにカッコいい種類(と思っている)で、伊豆半島にだけ分布しています。

系統的にはミミガタやヒガンに近いらしく、開花が展葉より早いです。

情報が少ない割には、現地で比較的多くの個体を見つけることができました。


(伊豆半島)

Arisaema yamatense  (Nakai) Nakai ssp. sugimotoi (Nakai) H.Ohashi et J.Murata
スルガテンナンショウ


主に近畿地方に分布するムロウテンナンショウの亜種となっています。
東海地方に分布しており、域内ではごく普通に見つかります。

付属体の先端がぐにゃっと曲がるとっても認識しやすい、とっつきやすい種類となっております。
あと、舷部が若干白っぽいのも特徴ということです。

ムロウとは随分雰囲気が違うので、別種という扱いになるのかな、とも思いますが、はたして。


(静岡県)