日本のテンナンショウ ~九州編

Arisaema Mart.  Sect. Pistillata   (Araceae) 


Arisaema はアジアの熱帯~温帯と、北米に200種あまりが知られる属です。
いくつかの節に分けられていますが、国内のものの大半は Sect. Pistillata (マムシグサ節) に属しています。

ユニークな見た目からすぐに認識できる一方で、種判別となると甘くなく、古くから先人たちにその頭を抱えさせてきました。
その要因として
1.植物体サイズによって性転換したり形態が著しくことなること
2.個体群内で仏炎苞の色など表現型が多様であること
3.複数種が同所的に混在すること

などが考えられるでしょう。
そんなこともあってフィールドで観察を続けると、彼らが何年もかけて創出した沼の深みにずぶずぶと嵌っていくことになるのでした。

本頁では、そんな愉快な Sect. Pistillata を分布域ごとに紹介していきます。第一弾は九州です。

*1 ナンゴクウラシマソウ、ヒメウラシマソウほか Sect. Flagellarisaema はこちらへ→ Sect. Flagellarisaema

Arisaema longipedunculatum M.Hotta 

シコクヒロハテンナンショウ


静岡県、四国、宮崎県と、著しい隔離分布をしてる変な種類です。
名前からして、四国編で紹介すべきかもしれませんが、撮影地が宮崎のためこちらにあげておきます

ヒロハテンナンショウより小型で、仏炎苞の縦すじの隆起が目立ちません。
種小名が longipedunculatum (花茎が長い) ということですが、写真のものとはまったくもって一致していません・・・

ブナ帯の、がれがれしたようなところにいることが多い気がします。
宮崎の自生地では、イネ科に埋もれながら開花する個体を少数確認することができました。

宮崎県の個体は仏炎苞に紫色の模様がありましたが、静岡県の個体(写真下段)は緑単色でした。

(↑←宮崎県 ↓静岡県)

Arisaema mayebarae Nakai
ヒトヨシテンナンショウ


暗紫色の仏炎苞が特徴的な九州南東部に多い種類。

とてもかこいい見た目ですが、シカの食害を受けた林内に乱立している様はなかなか不気味でした。


(↑熊本県、↓宮崎県)

Arisaema japonicum Blume  

マムシグサ(狭義)


近畿地方以西~九州にかけて非常によく見られるタイプです。
これまで東日本に多いカントウマムシグサと呼ばれるタイプと混同されてきましたが、開花季が他の種に比べても早く、かつ葉の展葉が開花より遅いことが特徴です。

仏炎苞は緑色の個体が圧倒的シェアを占めています。


(↑熊本県、↓宮崎県)

Arisaema ogatae Koidz.
オガタテンナンショウ(ツクシテンナンショウ)


宮崎、大分、熊本に分布。
頂小葉が側小葉に比べて小さいこと、舷部がドーム状にならずベシャッとしていることが特徴です。

自生地では多数のタシロに混ざって、ごく少数の個体を見出すことができました。


(宮崎県)

Arisaema ringens (Thunb.) Schott
ムサシアブミ


北は関東から南は八重山諸島の西表や与那国島、国外は台湾、朝鮮半島、中国まで広域に分布しており、かつ一度見たら忘れられない特徴的な形態で、葉だけでも同定できてしまうという、Arisaema のくせに、という言葉がピッタリ。
本当に Sect. Pistillata なのか・・・?

沿海部の林内によく生育しており、特に九州あたりまで南下すると、いたるところで見ることができます。

一方、南西諸島では、島によって少しクセのあるハビタットや分布パターンを示しており、沖縄本島では石灰岩地の林内、西表島では超稀産(筆者は石垣島では未見)、与那国島にはどこにでもいるという感じになっております。

(宮崎県)

Arisaema sazensoo (Blume) Makino
キリシマテンナンショウ


九州南部と屋久島にいる種類です。
色合いはヒトヨシにならぶ漆黒ですが、こちらはヒロハ的形態をしており、葉が1枚なのは揺るぎないようです。



(宮崎県)

Arisaema tashiroi Kitam.
タシロテンナンショウ(ツクシヒトツバテンナンショウ)


九州中南部のやや標高の高いエリアに見られる華奢な種類。

葉はふつう2枚だし、ツクシには分布していないしで、和名のシノニムの方は全くもって間違いなので注意。

自生地周辺はシカの食害でひどい有様でしたが、彼らはいたって元気そうでした。

(宮崎県)