日本のテンナンショウ ~中部・北陸編

Arisaema Mart.  Sect. Pistillata   (Araceae) 


国内には53種の Arisaema が記録されており、そのうち48種が Sect. Pistillata (マムシグサ節) になります。
よくまぁ、狭い日本列島の中で多様化したものですね。

Arisaema の第2弾は中部・北陸地方編です。
中部地方も非常に多様なエリアで、特に軽井沢は6種の Arisaema が同所的に生育しており、マニアにとってはメッカといえるでしょう。
一方で、北陸では多様性がガタ落ち。コウライとヒロハぐらいしかいません。

*1 カントウ、ホソバ、ヒトツバ、ヒガン、スルガ、ヤマグチはこちらへ→ 関東編
*2 マイヅルテンナンショウ、ウラシマソウはこちらへ→ Sect. Flagellarisaema

Arisaema galeiforme Seriz. 

ヤマザトマムシグサ


長野県で、最もふつうに見られる Arisaema のひとつ。

舷部内側のストライプがいかしています。
なかなかかっこいい種類だと思うのですが、知名度がいまひとつなのは、名前のせいか。

仏炎苞が大型で、オオマムシグサかと思うぐらい。
付属体も棍棒状で目立ちます。



(長野県)

Arisaema inaense (Seriz.) Seriz. ex K.Sasamura et J.Murata
イナヒロハテンナンショウ


オサレなヒッコリーストライプ柄のレア種。
伊那地方と北信地方でスポット的に記録されています。

写真は伊那の自生地での撮影です。非常に狭い範囲で10数個体を見つけました。

写真下段は開花個体の葉の様子ですが、この自生地においては、どの開花個体だろうが、どの実生個体だろうが、すべて相似だったので、みんなクローンなのかなぁ、と思った次第です。



(長野県)

Arisaema longilaminum Nakai 

ヤマトテンナンショウ(カルイザワテンナンショウ)


やや長い舷部が軽井沢に相応しい高級感を醸しています。

以前はカルイザワテンナンショウと呼ばれていたタイプで、紀伊半島に分布するものと統合されました。
こういう隔離分布は Arisaema でしばしば認められますが、実際に同じ見た目なんでしょうか。
紀伊半島の個体もいつか見てみたいものです。


(長野県)

Arisaema nikoense Nakai
ユモトマムシグサ


東北南部から中部地方の南部にかけて分布。
冷温帯や針葉樹林帯に見られます。

シカの食害が酷いエリアに分布、生育していることもあり、いるところにはたくさんいる、というイメージです。

葉柄基部が襟状にならない、という決定的な特徴があります。


(長野県)

Arisaema nikoense Nakai ssp. brevicollum (H.Ohashi et J.Murata)
カミコウチテンナンショウ


ユモトマムシグサの亜種。
葉はふつう1枚で仏炎苞が紫色系。

十数年前はたくさんいたような記憶があるのですが、再び探しに行った2018年には、2~3個体しか見つけられず。
別に減ってるわけではないと思うのですが、まぁ植物も移動しますよ、ということでしょう。

同じユモトの亜種として、北アルプスのより標高の高いエリアには、付属体が細めのハリノキテンナンショウというのがいます。


(長野県)

Arisaema ovale Nakai
アシウテンナンショウ


ヒロハテンナンショウの基準変種。

単なる仏炎苞の色違いなので、品種レベルでもいいと思うのですが、変種という扱いなので紹介します。

このタイプの個体数はなぜか少なめです。
緑色の方が適応的、ってこともないような気もしますが、何かがキイているんですかね。



(長野県)

Arisaema ovale Nakai var. sadoense (Nakai) J.Murata
ヒロハテンナンショウ


東日本のテンナンショウといえば、コウライとこれでしょう。
ハビタットはブナ帯の湿地にやや偏る感じです。

葉が基本1枚であることに加え、仏炎苞の白条の隆起、葉柄基部が襟状になる、といったあたりがポイントとなります。

(栃木県)

Arisaema peninsulae Nakai
コウライテンナンショウ


涼しい地方で、もっともよく見られる種類。
仏炎苞の白条が半透明なこと、付属体がやや棍棒状なこと、開花と葉の展開がほぼ同時であることなどが特徴です。
写真の個体は、いわゆるキタマムシグサと呼ばれる小型タイプで、以前は亜種 (ssp. boreale )として分けられていました。
名前の通り、大陸にも分布しているということです。

筆者は仏炎苞が緑色の個体しか見たことがないのですが、近畿~中国地方にかけては紫色系の個体がいるそうです。
ぜひ見てみたいですね。

(長野県)

Arisaema planilaminum J.Murata
ミクニテンナンショウ


主に関東地方北東部から長野県にかけて分布。
筒部口縁が耳状になること、仏炎苞がべちゃっとしていることが特徴です。
コウライのように白条が目立つことはありません。

仏炎苞の色は緑色でほぼ固定。
そのため、仏炎苞が緑色のムラサキマムシグサ(いわゆるカントウマムシグサ)に非常によく似ています。

(長野県)

Arisaema solenochlamys Nakai ex F.Maek.
ヤマジノテンナンショウ


こちらも主に関東地方北東部から長野県にかけて分布する種類です。
絵具を混ぜあわせて失敗したパレットのような色合いの仏炎苞が特徴です。

こちらもミクニ同様、ムラサキマムシグサの系統で、非常によく似ています。
ポイントとしては、舷部が垂れ下がり付属体が見えにくいこと、緑と紫色の混在する色合い、舷部内側の色が濃い、といったあたりでしょうか。


(↑群馬県 ↓長野県)

Arisaema takedae Makino
オオマムシグサ


とっても大型の Arisaema

ムラサキマムシグサの系統なので両種は連続的ですが、ハビタットが湿地に偏ること、付属体が大きく棍棒状で黄味がかった白色、筒部の細いストライプ、舷部がドーム状になり先端は垂れ下がることなどが特徴です。

典型的な個体は、一度見たら忘れられない衝撃のフォルムです。


(栃木県)