日本のテンナンショウ ~アマミテンナンショウ節

Arisaema Mart.  Sect. Clavata   (Araceae) 


今回は Arisaema の Sect. Clavata を取り挙げます。
この節に記録されているのは6種で、うち4種が中国、残り2種は日本のそれぞれ固有種となっています。
葉が台形状に展開するところが、よくみる Sect. Pistillata との一見した違いでしょうか。
扇子のようで美しいですね。

国内に見られるのは、シマテンナンショウとアマミテンナンショウで、後者はアマミ、オオアマミ、オキナワの3亜種に分けられています。


Arisaema heterocephalum Koidz.

アマミテンナンショウ(狭義)


奄美大島と徳之島に分布する小型のタイプ。
雲霧帯を中心に生育しています。

絶滅危惧ⅠBとなっていますが、意外と個体数は多く、時季があえば普通に見つかります。

下は徳之島の写真なので、左端にトクノシマエビネが写り込んでますね。

(↑奄美大島、↓徳之島)

Arisaema heterocephalum Koidz. ssp. majus (Seriz.) J.Murata

オオアマミテンナンショウ


徳之島に分布する大型のタイプ。
低地の石灰岩地で見られますが、多くが開発されている徳之島では、生育地が非常に限定的となっています。

植物体が大型で、葉より低い位置に花が付くことが特徴です。

(徳之島)

Arisaema heterocephalum Koidz. ssp. okinawense H.Ohashi et J.Murata

オキナワテンナンショウ


沖縄本島の石灰岩地に見られる小型のタイプ。
アマミに比べて小葉の数が少ないこと、仏炎苞の色に科紫要素が含まれることが違いですが、残念ながら開花個体は見たことがありません。

ガチガチの石灰岩の隙間から Arisaema の葉が出てくる様子は、若干異様でした。

(沖縄本島)

Arisaema negishii Makino
シマテンナンショウ


伊豆諸島南部に分布する大型の Arisaema
本節の中ではこの種類だけ、Sect. Flagellarisaema のように、付属体が仏炎苞から飛び出しています。

八丈島では個体数が極めて多かったです。


(八丈島)



日本のテンナンショウ ~近畿編

Arisaema Mart.  Sect. Pistillata   (Araceae) 


Arisaema の第4弾は近畿地方編です。
近畿地方は、各種の分布の東限だったり西限だったりするので、意外と多様性が高かったりしますが、別頁で紹介しているので、本頁はボリュームが少なめです。

そろそろ書くことがなくなってきたので、さっそく写真をあげていきます。

*1 スルガ、ホソバ、ウメガシマ、カントウ、ヒガン、ミミガタはこちらへ→ 関東編
*2 ヤマト、コウライ、ヒロハはこちらへ→ 中部編
*3 マムシグサ、ムサシアブミはこちらへ→ 九州編
*4 マイヅル、ウラシマ、ナンゴクウラシマはこちらへ→ Sect. Flagellarisaema

Arisaema cucullatum M.Hotta

ホロテンナンショウ


近畿地方には小型の種類が多く、どれも映えるのですが、稀少でなかなか出会えないのがたまに瑕ですね。

系統的にはセッピコとかに近いそうです。
まぁ見た目通りでしょう。

この自生地では、思ったより多くの個体に出会うことができました。
スネ夫の髪型のようでいかしています。

ちなみに、種小名の cucullatum は英語の cucullate で、"僧帽のような" という意味になります。

(和歌山県)

Arisaema kishidae Makino ex Nakai
キシダマムシグサ


展葉より早く開花するタイプの種類。
スルッと長い舷部が特徴です。

仏炎苞が何とも言えない薄~い褐色で、ミツバあたりに近いのかな、という印象です。


(和歌山県)

Arisaema nikoense Nakai ssp. australe (M.Hotta) Seriz.

オオミネテンナンショウ


ユモトマムシグサの仏炎苞が紫褐色系になったもの。
カミコウチやハリノキに近い見た目ですが、ふつう葉が2枚です。

伊豆半島、静岡県、紀伊半島と、とびとびに分布しています。
名前のオオミネは、大峰山のことですね。

写真の通り、開花が展葉より早いのも特徴となっています。

(和歌山県)

Arisaema seppikoense Kitam.

セッピコテンナンショウ


幾度となく探しに出かけ、ふられてきた種類でしたが、あるときスルッと見つけることができました。わーい。

小型、一つ葉の系統で、ホロやナギヒロの並びにいます。

かなりガラガラした斜面にかたまっていましたが、開花しているのは2~3個体だけでした。
この個体数で種を維持できるのか、心配になるレベルで少なかったですが、イモのおかげで何とか食いつないでるのでしょうね。

(兵庫県)

Arisaema yamatense (Nakai) Nakai
ムロウテンナンショウ


近畿地方でもっともよく見る Arisaema と言っていいでしょう。
シカ害の酷い当地では、山を歩くとどこでも出会うことになります。

付属体が細く、先端で少しクニャッと曲がるのが特徴です。
仏炎苞はほとんどの個体が緑色で、関東地方のホソバテンナンショウのポジションにいます。


(兵庫県)



日本のテンナンショウ ~関東(伊豆諸島含む)・東海編

Arisaema Mart.  Sect. Pistillata   (Araceae) 


Arisaema の第3弾は関東・東海地方編です。

このエリアには、特別珍しい種、とかがいるわけではないので、やや地味なイメージをお持ちの方もさぞ多いことでしょう。
まぁ、事実かもしれないですね。

とはいえ魅力的な種類もいるので、見逃せません。


*1 北関東に分布するヤマジノ、ミクニ、ユモト、コウライ、ヒロハ、オオマムシはこちらへ→ 中部編
*2 静岡に分布するシコクヒロハはこちらへ→ 九州編
*3 伊豆半島と静岡県に分布するオオミネはこちらへ→ 近畿編
*4 マイヅル、ウラシマはこちらへ→ Sect. Flagellarisaema
*5 伊豆諸島南部に分布するシマテンナンショウはこちらへ→ Sect. Clavata

Arisaema aequinoctiale Nakai et F.Maek. 

ヒガンマムシグサ


埼玉、愛知、岐阜、四国、中国と、とびとびで分布するヨシナガマムシグサ、神奈川、静岡、山梨に分布するハウチワテンナンショウ、千葉県(房総半島)に分布するヒガンマムシグサの3タイプが、この aequinoctiale にまとめられました。

写真は箱根の個体になりますので、ハウチワ型ということになります。
不連続な分布を示すので、個体群毎に個性があるでしょうから、どこでどう区切るのか、という好みの問題ですかね。

仏炎苞筒部口縁が耳状になるあたり、ミミガタテンナンショウに非常によく似ています。
仏炎苞の色が薄いこと、付属体がやや細いこと、筒部の白条が細いこと、小葉の幅が細いことなど、雰囲気程度の違いがいくつかあります。




(神奈川県)

Arisaema angustatum Franch. et Sav.
ホソバテンナンショウ


特別個性がある訳でもなく、他の種類に比べて細葉、というわけでもないという非常にオーソドックスな見た目の種類。

関東地方から東海地方の暖帯域で、極めてふつうに見ることができます。

仏炎苞の色は緑でほぼ固定。


(静岡県)

Arisaema aprile J.Murata 

オドリコテンナンショウ


伊豆の天城山周辺にのみ特産するレア種。

一見するとユモトマムシグサと同じですが、葉柄基部が襟状になることで判別できます。
あと、葉に斑が入りがちだそうです。

この自生地では、斜面の上から下にむかって点々と個体が見つかり、表面浸食と共に拡散しているんだなぁ、という雰囲気でした。

伊豆は、固有の3種を含む6種の Sect. Pistillata がいて、国内有数のホットスポットとなっています。

(伊豆半島)

Arisaema hatizyoense Nakai
ハチジョウテンナンショウ


伊豆諸島は七つあれど、八丈島にだけ分布しています。

シマテンナンショウに比べて開花が遅く、残念ながら出たばっかりの葉しか見つかりませんでしたが、光沢が強く、かなりがっしりとしている特徴が良くわかりました。


(八丈島)

Arisaema kuratae Seriz.
アマギテンナンショウ


伊豆半島にしか分布していません。
どの種類と系統的に近いのか、ちょっと判断しかねるほどかなり個性的な見た目をしていて驚きました。

葉は1枚の個体と2枚の個体が半々ぐらい、仏炎苞の色は紫のラインが入るタイプが多いものの、緑系もいました(写真中)。

オドリコの自生地もそうだったのですが、ここもシカの食害が酷いものでした。
でもArisaema たちはよろしくやっているようで、なによりです。


(伊豆半島)

Arisaema limbatum Nakai et F.Maek.
ミミガタテンナンショウ


仏炎苞口縁が耳状に広がっていることから、ミミガタといいます。
ヒガンマムシグサに近いですが、仏炎苞の色が濃い褐色で、付属体が太いことなどが区別点となっています。

ヒガンもそうなのですが、開花が他の種類より圧倒的に早く、また葉の展葉が開花より遅れることがこの種群の特徴となっています。



(東京都)


Arisaema maekawae J.Murata et S.Kakishima
ウメガシマテンナンショウ


東海地方から中国地方にかけて、点々と分布しているマイナー種。

ふつうに歩いていても、ホソバやムロウだと思ってスルーしてしまいそうな見た目です。

付属体が太いことが、パッと見で認識しやすい区別点だと思います。

この自生地(タイプ産地の梅ヶ島です)には、同所的にホソバもいたので、繰り返し見てるうちに葉の形だけでもどちらか見当がつくようになりました。


(静岡県)

Arisaema monophyllum Nakai
ヒトツバテンナンショウ


仏炎苞舷部の内側に入った濃紫の模様が唯一無二の特徴です。

もっぱら思わぬところで出会うのですが、尾根部とか、少し乾燥したようなところに多い気がします。

舷部内側に模様のないアキタテンナンショウ (f. akitense (Nakai) H.Ohashi)と、舷部一面が暗い色をしたクロハシテンナンショウ (f. atrolinguum (F.Maek.) Kitam. ex H.Ohashi et J.Murata) (写真下)の2品種が記録されています。。

(↑群馬県 ↓神奈川県)

Arisaema serratum (Thunb.) Schott
カントウマムシグサ


かつて、その形態の多様性から、ムラサキマムシグサだの、トウゴクマムシグサだのと分けられて (分けようとして?)きましたが、最近では統合されています。

本州でどの種の特徴にも当てはまらないような Arisaema がいたら、ひとまずカントウ!と言っておけば間違いないでしょう・・・つまるところゴミ箱ですね

写真上は仏炎苞が紫のタイプでムラサキマムシグサ、下は仏炎苞が緑色のタイプでカントウマムシグサとそれぞれ呼ばれていました。

緑型はコウライとよく似ていますが、付属体が棍棒状であるという点で区別可能です。

(栃木県)

Arisaema suwoense Nakai
ヤマグチテンナンショウ


カントウマムシグサとオオマムシグサの中間的な見た目の種類。
花序柄が短く、葉より下か同じ高さで開花するところが他種との違いとなっています。

この写真の撮影地は伊豆です。
当地の個体群は、これまでイズテンナンショウと呼ばれていましたが、昨今は山口県に分布する suwoense とまとめられており、 Arisaema によくありがちな隔離分布をした種類ということになりました。

典型的な個体の葉は1枚、ということなんですが、見つけた開花個体はみんな2枚でした。
Arisaema としては珍しく透性交雑を起こしているということで、その影響なのかもしれません。

(伊豆半島)

Arisaema undulatifolium Nakai
ナガバマムシグサ


国産の Arisaema の中では、トップクラスにカッコいい種類(と思っている)で、伊豆半島にだけ分布しています。

系統的にはミミガタやヒガンに近いらしく、開花が展葉より早いです。

情報が少ない割には、現地で比較的多くの個体を見つけることができました。


(伊豆半島)

Arisaema yamatense  (Nakai) Nakai ssp. sugimotoi (Nakai) H.Ohashi et J.Murata
スルガテンナンショウ


主に近畿地方に分布するムロウテンナンショウの亜種となっています。
東海地方に分布しており、域内ではごく普通に見つかります。

付属体の先端がぐにゃっと曲がるとっても認識しやすい、とっつきやすい種類となっております。
あと、舷部が若干白っぽいのも特徴ということです。

ムロウとは随分雰囲気が違うので、別種という扱いになるのかな、とも思いますが、はたして。


(静岡県)



日本のテンナンショウ ~中部・北陸編

Arisaema Mart.  Sect. Pistillata   (Araceae) 


国内には53種の Arisaema が記録されており、そのうち48種が Sect. Pistillata (マムシグサ節) になります。
よくまぁ、狭い日本列島の中で多様化したものですね。

Arisaema の第2弾は中部・北陸地方編です。
中部地方も非常に多様なエリアで、特に軽井沢は6種の Arisaema が同所的に生育しており、マニアにとってはメッカといえるでしょう。
一方で、北陸では多様性がガタ落ち。コウライとヒロハぐらいしかいません。

*1 カントウ、ホソバ、ヒトツバ、ヒガン、スルガ、ヤマグチはこちらへ→ 関東編
*2 マイヅルテンナンショウ、ウラシマソウはこちらへ→ Sect. Flagellarisaema

Arisaema galeiforme Seriz. 

ヤマザトマムシグサ


長野県で、最もふつうに見られる Arisaema のひとつ。

舷部内側のストライプがいかしています。
なかなかかっこいい種類だと思うのですが、知名度がいまひとつなのは、名前のせいか。

仏炎苞が大型で、オオマムシグサかと思うぐらい。
付属体も棍棒状で目立ちます。



(長野県)

Arisaema inaense (Seriz.) Seriz. ex K.Sasamura et J.Murata
イナヒロハテンナンショウ


オサレなヒッコリーストライプ柄のレア種。
伊那地方と北信地方でスポット的に記録されています。

写真は伊那の自生地での撮影です。非常に狭い範囲で10数個体を見つけました。

写真下段は開花個体の葉の様子ですが、この自生地においては、どの開花個体だろうが、どの実生個体だろうが、すべて相似だったので、みんなクローンなのかなぁ、と思った次第です。



(長野県)

Arisaema longilaminum Nakai 

ヤマトテンナンショウ(カルイザワテンナンショウ)


やや長い舷部が軽井沢に相応しい高級感を醸しています。

以前はカルイザワテンナンショウと呼ばれていたタイプで、紀伊半島に分布するものと統合されました。
こういう隔離分布は Arisaema でしばしば認められますが、実際に同じ見た目なんでしょうか。
紀伊半島の個体もいつか見てみたいものです。


(長野県)

Arisaema nikoense Nakai
ユモトマムシグサ


東北南部から中部地方の南部にかけて分布。
冷温帯や針葉樹林帯に見られます。

シカの食害が酷いエリアに分布、生育していることもあり、いるところにはたくさんいる、というイメージです。

葉柄基部が襟状にならない、という決定的な特徴があります。


(長野県)

Arisaema nikoense Nakai ssp. brevicollum (H.Ohashi et J.Murata)
カミコウチテンナンショウ


ユモトマムシグサの亜種。
葉はふつう1枚で仏炎苞が紫色系。

十数年前はたくさんいたような記憶があるのですが、再び探しに行った2018年には、2~3個体しか見つけられず。
別に減ってるわけではないと思うのですが、まぁ植物も移動しますよ、ということでしょう。

同じユモトの亜種として、北アルプスのより標高の高いエリアには、付属体が細めのハリノキテンナンショウというのがいます。


(長野県)

Arisaema ovale Nakai
アシウテンナンショウ


ヒロハテンナンショウの基準変種。

単なる仏炎苞の色違いなので、品種レベルでもいいと思うのですが、変種という扱いなので紹介します。

このタイプの個体数はなぜか少なめです。
緑色の方が適応的、ってこともないような気もしますが、何かがキイているんですかね。



(長野県)

Arisaema ovale Nakai var. sadoense (Nakai) J.Murata
ヒロハテンナンショウ


東日本のテンナンショウといえば、コウライとこれでしょう。
ハビタットはブナ帯の湿地にやや偏る感じです。

葉が基本1枚であることに加え、仏炎苞の白条の隆起、葉柄基部が襟状になる、といったあたりがポイントとなります。

(栃木県)

Arisaema peninsulae Nakai
コウライテンナンショウ


涼しい地方で、もっともよく見られる種類。
仏炎苞の白条が半透明なこと、付属体がやや棍棒状なこと、開花と葉の展開がほぼ同時であることなどが特徴です。
写真の個体は、いわゆるキタマムシグサと呼ばれる小型タイプで、以前は亜種 (ssp. boreale )として分けられていました。
名前の通り、大陸にも分布しているということです。

筆者は仏炎苞が緑色の個体しか見たことがないのですが、近畿~中国地方にかけては紫色系の個体がいるそうです。
ぜひ見てみたいですね。

(長野県)

Arisaema planilaminum J.Murata
ミクニテンナンショウ


主に関東地方北東部から長野県にかけて分布。
筒部口縁が耳状になること、仏炎苞がべちゃっとしていることが特徴です。
コウライのように白条が目立つことはありません。

仏炎苞の色は緑色でほぼ固定。
そのため、仏炎苞が緑色のムラサキマムシグサ(いわゆるカントウマムシグサ)に非常によく似ています。

(長野県)

Arisaema solenochlamys Nakai ex F.Maek.
ヤマジノテンナンショウ


こちらも主に関東地方北東部から長野県にかけて分布する種類です。
絵具を混ぜあわせて失敗したパレットのような色合いの仏炎苞が特徴です。

こちらもミクニ同様、ムラサキマムシグサの系統で、非常によく似ています。
ポイントとしては、舷部が垂れ下がり付属体が見えにくいこと、緑と紫色の混在する色合い、舷部内側の色が濃い、といったあたりでしょうか。


(↑群馬県 ↓長野県)

Arisaema takedae Makino
オオマムシグサ


とっても大型の Arisaema

ムラサキマムシグサの系統なので両種は連続的ですが、ハビタットが湿地に偏ること、付属体が大きく棍棒状で黄味がかった白色、筒部の細いストライプ、舷部がドーム状になり先端は垂れ下がることなどが特徴です。

典型的な個体は、一度見たら忘れられない衝撃のフォルムです。


(栃木県)