Asarum L. Sect. Heterotropa (Aristolochiaceae)
日本列島で比較的短い期間に多様に進化した日本の Asarum たち。
ここでは、我が国に50種あまりが記載され、いくつかの未記載種も見出されている Sect. Heterotropa を対象に、各種その分布域ごとにとりまとめ、紹介していきたいと思います。
というのも、彼らは散布能力がほぼ皆無なので、分布と系統はおおよそ一致いていると考えて差支えなさそうなので。
まずは関東~東海地方に分布する種群です。まだまだ出会ったことのない種類も多いので、写真が揃い次第、順次更新していきたいと思います。

| Asarum blumei Duch.
ランヨウアオイ
春咲き。 萼裂片が大きく、葉がほこ型で張り出すことから、比較的容易に判別可能な種類です。
葉の斑や萼の色には変異があります。
系統的にアマギ、タマノ、カギガタと近いそうです。
(↑4. 2019 神奈川県) (↓4. 2018 静岡県) |
| Asarum curvistigma F.Maek.
カギガタアオイ
山梨県と、静岡県に分布。秋咲き。
名前が curvstigma (stigma→柱頭、curv→曲がる)ということで、ぜひ見てみたいとワクワクしていたのですが、個体数の少なさに気が引けて、結局捌きませんでした・・・。
葉はグニグニした触りごこち。 秋咲きということもあり、花はほぼ土に埋まっていました。
(3. 2019 山梨県) |
| Asarum kurosawae Sugim.
イワタカンアオイ
愛知県と静岡県の県境付近に分布。 思ったより花が大きい。
萼筒内側の隆起線は細かい格子状ということですが、遠慮なく裂けるほど個体数がおらず断念(というより開花個体が写真のものだけだった・・・)。
萼裂片に細毛があることが特徴のようです。
(3. 2019 静岡県) |
| Asarum muramatsui Makino
アマギカンアオイ
伊豆半島に分布。 見た目はタマノカンアオイとほぼ同じ。 昭和天皇陛下が御用邸の標本を元に記載したシモダカンアオイというのがいますが、最近では区別しません。
タイリンアオイとかにも似ているのですが、遺伝的にはカギガタとかよりも遠いんだそうです。
(伊豆半島) |
| Asarum nipponicum F.Maek.
カントウカンアオイ
関東地方でカンアオイと言えばこれ。
秋咲きで、萼筒開口部が白色に縁どられるのが特徴です。
変種として近畿と四国に分布しているナンカイアオイが記載されていますが、この扱いが妥当かどうかは微妙なところと思います。
(1. 2012 東京都) |
| Asarum savatieri Franch.
オトメアオイ
主に伊豆半島に分布。 夏に開花し、翌年春過ぎてようやく結実するという、かなり余裕を感じるフェノロジー。 前年の花の基部からその年の新葉が展開しています。 萼筒内部の隆起線は、カントウに比べて細かいようです。
savatieri には亜種のズソウカンアオイ (ssp. pseudosavatieri)と、その変種イセノカンアオイ(var. iseanum) が記載されています。
(5. 2018 伊豆半島) |
| Asarum savatieri Franch. ssp. pseudosavatieri (F.Maek.) T.Sugaw.
ズソウカンアオイ
オトメアオイの亜種。 オトメが夏咲き→冬越しなのに対して、こちらは秋咲き→冬越し。
ただし正確に同定するなら、生長様式を確認しないとダメ。 ズソウは鱗片葉の内側から葉と花が一緒に出てくるのに対し、オトメは葉にも鱗片葉が付くので、それぞれの痕跡を見るとどちらかが特定できる・・・はず。 でも実際に見てみたらムズかった。
つまるところ、ズソウは鱗片葉→葉→花、オトメは鱗片葉→葉→鱗片葉→花となります。 それから、写真中段のように、鱗片葉が脱落しにくいのも特徴のひとつのようです。
それぞれの区別については、内藤・小清水 (1984) と神奈川県植物誌 (2018) が詳しいのでご参照ください。
(3. 神奈川県)
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| Asarum tamaense Makino
タマノカンアオイ
関東地方南西部の狭い範囲に分布しています。
そういった経緯から絶滅危惧種に指定されていますが、多摩丘陵の緑地では比較的普通に生育しています。
緑地を積極的に管理するボランティアさんたちのおかげでしょう。
アマギと瓜二つですが、葉柄の色が紫色です。
(4. 2013 東京都) |
<Reference>
内藤・小清水 1984 神奈川県西部における力ンアオイ属 Heterotropa
の種類と分布について. 神奈川自然誌資料 5:61-70.