Deeringia R. Brown インドヒモカズラほか


せっかくなので、紙媒体の図鑑にはあんまり載らない属を攻めてみましょう。

そういうわけで、ヒユ科のDeeringia です
知る人ぞ知るマイナーな属で、日本ではヒモカズラ属というようですね。

※縁もゆかりもないイワヒバ科のSelaginella 属に、ヒモカズラという種がいます。混乱を招きそうでややこしいですね。
もっとも、どちらもマイナーなのでそんなことにはならないのですが...

草本が多いイメージのヒユ科ですが、この属はやや木本状になり、よりかかったり、垂れ下がったりしながら育つ半つる性の種によって構成されます。まきつく茎や引っかかるための刺をもたないので、全体的にだらしない感じの藪が出来上がります。

さて、このDeeringiaですが、国内で見ることができるのはわずか1種で、沖縄県の八重山諸島に稀産します。
世界的にみるとマダガスカル、東南アジア、オーストラリアに7種ほどが分布し、熱帯域を中心に分布する小さな属です。中南米にはいないんですね...

ちなみに、マダガスカルにはDendroportulaca mirabilis Eggli.という名前のスベリヒユ科の低木が知られていました。しかし、形態的にかなりスベリヒユ科と異なる点があったようで、2005年に晴れて?Deeringiaに移され、今ではDeeringia mirabilis (Eggli) Appleq. & D.B.Prattとなっています。Deeringiaは基本的に液果をつけますが、この種の果実は裂開するらしいので、果たして今後もDeeringiaでありつづけるかどうかは疑問の余地がありそうです。 



それでは、これまで各地で見かけたDeeringiaたちを載せていきます。


Deeringia amaranthoides Merr.

amaranth → ヒユ属
oides→似た

赤い果実が魅力的な種。
中国南部からオーストラリアまで分布する種ですが日本では見られません。
と、いうことで、これを見るためベトナムまで行ってきました。
自生地は石灰岩地の山で、急斜面に点在するように見られました。
同所的にインドヒモカズラも見られ、インドヒモカズラが岩上に多いのに対し、D. amaranthoidesは土壌の豊かな地上に多い印象です。

(2019 ベトナム クアンビン省)


Deeringia densiflora Cavaco

densi → 密な
flora→花 

マダガスカルで唯一見ることができたDeeringiaです。
乾季だったためか花も果実もなく、枝葉しかなかったため同定にはあまり自信がありませんが...
茎葉に短毛が密生するためアジアの種とは印象がかなり違います。枝がつる状に伸びるのは他種と同様で、ブッシュに寄りかかりながら6mくらいの高さまで伸びていました。
自生地は、砂質土壌の丘陵地帯にわずかに残された半落葉樹林で、個体数はそこそこいる感じでした。

(2019 マダガスカル ソフィア圏 )

 


Deeringia polysperma (Roxb.) Moq.
インドヒモカズラ

poly → 多い
sperma→種子 

石灰岩の露頭やその近くに生えているのを見ることが多いです。ほとんど土壌のない岩隙にも根はっていて、意外と乾燥にも強いらしい。
花は緑色で自家受粉するっぽい。白熟する果実は真珠のように美しい。日本では花も果実もほとんど一年中見ることができる。

日本以外では中国南部、インドシナ、マレーシア、フィリピンなど比較的分布域は広い。自生地の北限にあたる八重山では、いかにも北限らしく、つつましやかに生きているのを見ることができます。

台湾とベトナムでもみましたが、少し雰囲気が違いました。フィリピンのは葉の裏が紫らしい!?

(2017. 2019 沖縄県)
<Reference>
Applequist et al. 2005 The Malagasy endemic Dendroportulaca (Portulacaceae) is referable to Deeringia (Amaranthaceae): molecular and morphological evidence. Taxon 54.3: 681-687.
Li et al. 2003. Flora of China. Vol. 5 (Amaranthaceae). Science Press, Beijing, and Missouri Botanical Garden Press, St. Louis.